2010年5月24日

今日の芸術 岡本太郎; 7冊目

芸術は爆発だ!などと昔TVで出てきた岡本太郎氏の言動。渋谷の井の頭線へに行く途中に見えるオブジェや太陽の塔などなじみのある作品がずらりと並んでいるが、実際にどういった人物だったのか、まったくもってわからなかった。

実 は、私も知らなかったのだが、岡本氏は芸術を一度離れ、哲学の道を歩んだ経験があるとのこと。しかしながら、言葉で表現するのに限界を感じ、最終的に芸術 の道に戻ってきたのだそうだ。お、これは私がかつて研究者の道を10年程度歩んで、そこに限界を感じ離れたのと似たような経歴ではないかと。これは非常に 面白そうだ。

というわけで友人からの紹介で岡本太郎氏の「今日の芸術」を読んでみた。

今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社文庫)/岡本 太郎

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一ページ目からおもったことは、この人は非常にシンプルな人間であること。とにかく、芸術について語っているが、一言一言がわかりやすい。ここでは取り上げないが、西洋美術に対する造詣が非常に深く、西洋史を芸術の観点から興味深く復習することもできた。

まず芸術とは何かから始まる。

「まことに、いったい芸術とは何なのだろう。
素朴な疑問ですが、それはまた、本質をついた問題でもあるのです。
芸術は、ちょうど毎日の食べ物と同じように、人間の生命にとって欠くことのできない、絶対的な必要物、むしろ生きていることそのものだと思います。
(略)
全ての人が現在、瞬間瞬間の生きがい、自信を持たなければいけない、その喜びが芸術であり、表現されたものが芸術作品なのです。」

つまり、岡本氏はいいたいのは、自分自身の生き方を充実させる(いわゆる生きがい)こと、そして自分で自分を創り出すこと、それこそ芸術であると。いわば自分の個性の表現で、自分の魂や心が突き動かされるものといってもよいのでしょう。彼はそれを

「単 純なことと思ってよいのです。喜びとか悲しみ、嘆きまたは、いろいろの人間的感情が、うつぼつとして心の中に蟠っています。(略)自分の自由な感情をはっ きりと外に現すことによって、あなたの精神は、また一段と高められます。つまり芸術を持つことは、自由を身につけることであり、その自由によって、自分自 身を狭い枠の中から広く高く推し進めてゆくことなのです」

そして芸術に欠かせないこととして

「芸術は、絶対に新しくなけ ればなりません。芸術はいつ、いかなる時代でも、新しいという意味で、大きな憧れでもありました。と同時に、それがために、前に述べたように、きわめて残 酷に非難されてもきたのです。芸術家は、それぞれの時代の正反対の評価、矛盾に耐え、勇気と英知で持って、それを乗り越えてきたのです」

と。新しい創造こそ芸術ということは非常に納得だし、新しいことに対して、周囲から理解できないというのもうなづける。例えば、ゴッホは描き手としては優れていたが、その時代にマッチすることができず、不遇の一生を終えたことなど。

岡 本氏は独自に先進的な課題を作り上げて前進していく芸術家をアバンギャルドと呼び、より容易な型に変えるモダニズムと区別している。モダニストは、うまく 時代にマッチさせるように流行を持っていくのに対して、アバンギャルドな芸術家は常に批判的に物事を考えるという。そして、時代を突き動かす芸術を

「今までなかった、まったく新しいものを作り出して、時代を引きずっていく。それは、みんなが引きつられて、型として真似しはじめるから、いわゆる「流行」という現象が起こるのです。この流行の「創造」と「模倣」の二つの要素が時代を進めているのです」

と述べている。

芸術についてここまで深く考えたことがなくいろいろと勉強になったが、芸術よりも私自身、科学者としてすごした10年間を思い出させるような内容だった。

科 学は、新しいことを探すことが仕事である。新しいということは、つまりだれもが知らないことを見つけることであり、冒険家でもある。その過程では孤独でも あり、なかなか見つかるものでもないので苦労も絶えない。そして、例え新しいことを見つけたとしても、あまりにも前衛的であったとしたら、それに対する批 判が集中し、なかなか研究者社会から認められないこともある。

だが、一方で、DNAの二重らせん構造やたんぱく質の構造、そして最近ではiPS細胞の発見がされたときに、あ、こんなに生命は美しく、かつ奥深いんだという、心を突き動かされるものもある。

私はかつて、恩師から、

「その研究は、何が新しいのか、何が面白いのか?」

とよく聞かれたことがあった。なかなか説明できずなんども怒られたことがあったが、きっと、これは科学において本質的な質問であり、心を突き動かされるものは何かを聞かれていたのだと今振り返ってみて思う。

つまり、理屈やロジックの上に成り立っている、科学というものは実は、芸術と同じように、人間の感情の一表現でもあるように思えてくる。考えてみれば、人間の好奇心、知りたいと思う気持ちというのはある意味で情熱であり、それも感情の一部なのでしょう。

いや、この本は本当に奥深く考えされられることが多い。いい本の出会いに感謝です。