2015年3月3日

【R#71】身体と心(6)〜Tonic Function(3):Space

ロルフィングのPhase IIトレーニングのセッション5を学んでいる時だったと思う。人を立たせて、左側、右側、中央側からゆっくりと歩いていき、どのようにその人が世界を知覚するのか?をみる。その際に、私の場合には左側に対して接近すると警戒感があったのに対して、右側や中央側だと全くそういったことがなかった。

また、New Zealandに住んだことがあり、現在仲間としてロルフィングを学んでいる同僚は、正面に接近すると、警戒心を抱くようになるという。

これは、Space(空間)に対する認識が一人一人違う事によって起こる。

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Spaceに対してサイエンスの世界はどのように考えているのか?

科学ライターとして有名なSandra Blakesleeに「Body Has a Mind of Its Own(邦訳:脳の中の身体地図)」という本では、Spaceについて以下のように紹介している。

「両腕を身体の正面にいつぱいに伸ばす。手は指先までピンと伸ばして、平らにすること。そのまま、上下、左右に振ってみる。頭の上から大きく回して脇に下ろす。四本の腕を他つシヴァ神のつもりになって、あなたのテリトリーをもっと大きく広げてみよう。さて今、腕が通過した全空間をイメージしていただきたい。これがあなたの身体を取り巻くパーソナル・スペースだ。神経科学者はこれをペリパーソナル・スペース(Peri-personal Space)と呼んでいる。この空間が隅から隅まで脳内でマッピングされている」

このPeri-personal spaceは個人によって違い、それが人と人との距離感の取り方に現れてくる。個人的なスペースの確保がなぜ大切かというと、外部環境に身を置いたときに、脳が空間をどのように移動しているのか?把握しておかないと不測の事態(例、車やバスが向かってくる、人が接近してくる)に対応できなくなるためである。対応するために、手を伸ばしたり、引き離したり、近づいたり、身を守ったりする必要がある。このためにPeri-personal spaceが形成される。

次に、ロルフィングにおいてSpaceはどのように考えているのか?

本コラムでTonic Functionについて何度か紹介しているが(Tonic Functionについては、【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】参照)、その提唱者のHubert Godard氏は、Giovanni先生の恩師の一人。私自身、Giovanni先生から学んだことはクライアントとの間にSpaceを大切にすること(Hold the space)(この点については、【RolfingコラムVol.64】で触れた)。この考えはGodard氏の考え方に影響を受けている。

Godard氏は、Spaceを

その人が外界(環境)と築く想像上の関係(Imaginary building of our relationship to the world)

と定義している。

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そして、客観的に測定できる空間(Space)をToposといい、Spaceと使い分けて考える。Spaceは、「関係を築くということ」から、個人がどのようにSpaceをとらえるのか?という意味では、育った環境、個人的に歩んできた体験(成功体験、トラウマ体験)、文化的な背景に影響を受けることになる。

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文化的な例の一つに日本の満員電車を挙げることができる。満員電車でぎゅうぎゅう詰めになり物理的なSpaceであるToposが全くない状況に遭遇することがある。それにもかかわらず、個人的なSpaceが侵されているという感覚がない。

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本コラムで、絵画史と身体について取り上げたが、これはまさしく人類の歴史において書き手の画家がどのようにしてSpaceを身体は認識してきたのか?を現している(【RolfingコラムVol.14】【RolfingコラムVol.30】参照)。

ロルフィングで身体を調えるということは、身体内にSpaceを作ることである(【RolfingコラムVol.36】参照)。そして、Spaceというのは、身体内のSpaceのみならず、Spaceの中に身体があるともいえ、内外のSpaceが影響を与えあうものである。

Godard氏はSpaceに対する考えを発展させてTonic Functionという理論へと結晶化させた。Tonic Functionについては本コラムで紹介したが(【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】参照)、キーとなるのが2方向性(Palantonicity)だ(【RolfingコラムVol.19】参照)。

Godard氏の言葉を紹介すれば、2つの方向性とは、足を整えることで下半身の土台を築く(Ground orientation:ground:地に着く、orientation:方向性)という一つの方向性と、土台に基づいて上半身が自由にSpaceと関係を構築する(Space Orientation)という方向性の2方向をもつこと。2つの方向性をもつことでTonic Muscleは効率的に働き、身体は調っていく。

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ロルフィングの醍醐味は、様々なテクニックやエクササイズが紹介されるが、自分の周囲にあるSpaceに対して新たな選択肢をクライアントにもたらすことにあると思う。そして、Hold the spaceはそれを手助けてくれる。これからもSpaceを大事にセッションをおこなっていきたい。

参考文献;

Phenomenological Space, Interview with Hubert Godard, Contact Quarterly; 2003

Sandra Blakeslee, Body Has a Mind of Its Own