【R#87】アレクサンダー・テクニックとの関係(1)

トレーニングも後2日となった。今回は、ロルフィングのトレーニング中に時々話題になるアレクサンダー・テクニック(AT)について紹介し、ロルフィングとの共通点について考えたい。
Drop of water
実は、ロルフィングのトレーニングを受ける1年以上も前、当時、練習していたアシュタンガ・ヨガのマイソールクラスでAT教師の荒牧稔博先生(以下トシ先生)からATを知ることができた。
興味を持った理由として、トシ先生は、短期間で非常に難しいアシュタンガ・ヨガのシリーズをマスターしていったこと。その秘訣はどこにあるんだろうか?ということで興味を持った。もちろん、私自身、アシュタンガ・ヨガを実践しているのに身体に力みがあるというのも大きな理由でもあった(【RolfingコラムVol.11】参照)。
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ATについては、【RolfingコラムVol.11】でも触れたが、頭と脊柱の関係に注目することで、身体の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習。力を抜くことを身体で覚えていく方法の一つだ。 オーストラリア人の劇作家フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander)によって開発された。
余談になるが、ロルフィングを開発したアイダ・ロルフ、フレデリック・アレクサンダー、フェルデンクライス・メソッドを開発したモーシェ・フェルデンクライス(Moshe Feldenkrais)は西洋ではボディワークの三大巨匠と呼ばれ、モーシェとアイダは同世代を生き、ロルフィングもATの影響を受けた。
そこで、トシ先生が通っているBody Chanceに伺うことにした。当時、参加した体験セッションは、校長のジェレミー・チャンス先生と通訳のバジル・クリッツアー先生の2人(共にAT教師)。
そこでの体験をシェアしたい。
物を拾うという動作を通常のやり方で行った後、先生が一人一人、ATが重要視する頭と脊椎との関係に身体意識を向けるためにAO関節(頭蓋骨と脊柱の接点)に軽く手を当てて、ガイドしていった(ハンズ・オンという)。不思議なことに、その作業をするだけで首こりが軽減。当時、衝撃を受けた。その後、何度か基礎・コース通っていくうちに、ヨガのポーズも改善していったこともあり、プロ・コースに参加したくなった。そこで、2013年4月より、仕事で忙しくなった関係上途中で休学するまでの約8ヶ月間(2週間に一度のペース)学ぶことになる。
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プロ・コースでATの教師を目指すためのコースだが、私の受けたトレーニングは、解剖学とATのハンズ・オンを受けることがメインだった。実は、プロ・コースでは、ハンズ・オンをATの教師から受けることで、身体にその感覚をしみこませる。ロルフィングで言うところのembodimentだ(【RolfingコラムVol.22】参照)。
毎回のATのトレーニングは、PC動作、座る、寝転がる、ヨガのポーズなど基本的な動作を取り上げる。いずれも、頭と脊椎との関係の意識を向け、身体にそれを徐々に覚えさせることに費やす。
このATのハンズ・オンについて、ロルフィング・トレーニングのPhase IIで教わったGiovanni先生もよく知っていて、ATでは少なくとも3年かけて養う(AT教師は合計で約1,200時間のトレーニングを受けることになる)。ちなみに、ロルフィング用語ではハンズ・オンのことをγタッチ(身体がγ運動神経系が優位な状態の手になり施術をする)と呼ぶ。そして、ロルフィングは、そのタッチ感覚で施術を行うことが重要だ。
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以前【RolfingコラムVol.42】で触れたが、ロルフィングは
如何にしてα運動神経系に支配されるPhasic muscle(疲労感のある一時的に働く筋肉)よりも、γ運動神経系の支配を受け、身体内のエネルギーの効率の高いTonic muscle(持続的に働く筋肉)を働かせるか?
にある。ATでは、頭と脊椎との関係を通じて、このγ運動神経系を身体内で優位に働かせ、ハンズ・オンに反映。ロルフィングと同じようにTonic Muscleを働かせる身体へ再教育していく。そういった意味でロルフィングとATは目指している方向性は似ている。
身体にATをしみこませた後、ATを他人に施術する準備が整う。そこで、さらに施術するにあたって、しっかりと頭と脊椎との関係ができた上でのこと、そのプロセスを詳細に見ていく。ATは、それなくして相手にも施術ができないと考えるからだ。まさに、Phase IIIで教わった
ロルファーが今までどのように自分自身の身体と向き合ってきたのか?というものがクライアントに伝わる
に似ている(【RolfingコラムVol.82】参照)。
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ロルフィングとATにはトレーニングの仕方にも共通点がある。ロルフィングで重視されるのは各セッションでどのようにして身体観察(Body reading)を行うのか?を繰り返し観察すること。この手法は、【RolfingコラムVol.58】で触れたが、身体に対する見る目を養うまで情報を与え続けることで磨く。同じように、ATも頭と脊柱との関係が身体内でしっかりとしみこむまで続く。いずれもボディワークの特徴である、分析する目を養うというよりも「知覚すること」を学ぶ共通点を持っていると思う。
このように二つのメソッドはいかに余計な力を抜くかという目的に向かっているという意味で非常に共通点が多く面白い。また、アプローチが違うので、ある意味、ATとロルフィングは相補的な関係にあるともいえる。その点については別の機会に譲りたい。