2015年5月25日

【R#98】エサレン研究所(2)〜心理学の大衆化と雰囲気

本コラムで前回エサレン研究所(Esalen Institute)について取り上げたところ(【RolfingコラムVol.94】参照)、予想以上の反響があった。そのため、吉福伸逸氏のセラピストについての考え方は次回に触れることにして、もう少しエサレン研究所について書きたい。詳細を知りたい方は、下記の本を読んでいただくとより理解が深まると思う。

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60年代後半になると、アメリカ・カルフォルニアを中心として、アメリカ全土にヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント(Human Potential Movement)という運動が広がっていく。欲求の5段階説を唱えた、アブラハム・マズロー氏によって作られた人間性心理学を基盤に大衆的に広がった運動として知られており、吉福氏はこの心理学を「ポップ心理学」と呼んでいる。

この運動を通じて、ボディワークや最新の心理セラピー、瞑想といったものを体験していく。なぜ、このような運動が盛んになったのか?というと物事を理性で判断するという、西洋的価値観や理知主義の行き詰まりというのも大きかったのかもしれないが、東洋思想との出会いやLSDの体験により人間の情緒的な広がりを受け入れやすくなったからという(LSDと心理学については、【RolfingコラムVol.94】参照)。

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興味深いのは、正常な人が対象になったことと、裾野が広がり、専門家でない人も取り組むことができるようになったことだ。

ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの理論的な支柱となったのが、マズローの人間性心理学、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始したカール・ロジャース、ゲシュタルト・セラピーを開発したフリッツ・パールス(ゲシュタルト療法はNLPを作る基礎となっているが、いずれ本コラムで取り上げる予定)、バイオエナジェティックスのアレキサンダー・ローエンを含め多数が関わっているが、身体を中心としたボディワークもこれに含まれる。例えば、本コラムで取り上げたアレキサンダーテクニック、フェルデンクライス・メソッド、ロルフィングなど(アレクサンダーテクニックとロルフィングの違いについては、【RolfingコラムVol.85】【RolfingコラムVol.90】参照)。

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エサレンはヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの拠点となっていた。マイケル・マーフィーとディック・プライスがインドへ旅し、北インドのオーロビンドのアシュラム(精神的な修行を行う場所)を訪れ、アメリカにもそういった拠点が欲しいということで、Big Surで作ったという(【RolfingコラムVol.94】参照)。

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エサレンの特徴は、スカラー・イン・レジデンス(居住研究員)という制度があり、フリッツ・パールスが研究員として長期間エサレンに滞在した。そして、他にも心理学の先駆者や東洋の宗教家、グルなどがエサレンに滞在したらしい。

吉福氏はエサレンが作られた初期の頃に滞在し、その良かった点として挙げているのが、実験精神が旺盛であったこと。特定の技法のみがその場を占拠することがなく、場を提供する形であらゆる修行法や療法が入ってきたということ。またエサレンのそばには、タサハラ禅センター道場、そして200km離れた、サンフランシスコにはサンフランシスコ禅センターもあり、予想以上に禅がヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントに影響を与えたという。

参考に、サンフランシスコ禅センターを作ったのは、曹洞宗の鈴木俊隆老師。スティーブ・ジョブスの禅の師匠であり、一度本コラムで触れたことがある(【RolfingコラムVol.18】参照)。西洋に理論的は体系を持ち込んだ鈴木大拙氏とは違い、鈴木老師は、修行体系をアメリカに持ち込んだところに特徴がある。参考に、鈴木老師の下記の書物は、西洋に受け入れられた禅を知る上で興味深い一冊だ。

Beginners mind

世界一周へ旅発つ前に、田口ランディ氏が吉福伸逸氏と対談した「仏教のコスモロジーを探して」に興味深いことが書かれている。

田口ランディ

「あのね、僕の友だちでウィリアム・アーウィン・トンプソンという歴史家がいるんです。たぶん『宇宙意識への接近』に出てると思うんだけど。日本はね、トヨ タ・ホンダ、すごい車をつくってアメリカに輸出するようになりましたよね。根っこは車社会のアメリカから日本は車を学び、アメリカにまで輸出するように なった。一方、日本はアメリカに禅を持ち込んだ。彼はそれを「どっちのほうが価値があると思う?われわれははるかに得した」って言ってるんです」

禅がアメリカに与えた影響が如何に大きかったことがわかるエピソードだと思う。

このような雰囲気から、ロルフィングが生まれていると思うと、アメリカは、最先端の科学のリーダーとしての役割のみならず、その裾野の深さを感じる。では、次回吉福伸逸氏のセラピストについての考え方について取り上げたいと思う。

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