【R#107】ロルフィングの歴史と代替医療

ロルフィングの歴史を見ると、代替療法の隆盛と衰亡の歴史にかぶってくる。前回は、代替療法と対処療法の歴史について本コラムで触れた(【RolfingコラムVol.105】参照)。

Ida Rolfの書いた’Rolfing and Physical Reality‘によると、Ida Rolf(1896年〜1979年)は、1896年、NYで生まれ、ブロンクスで育った。

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1916年にBarnard Collegeを卒業。当時第一次世界大戦(1914年〜1918年)の頃で、若い男性が兵役に取られていたため、女性初のロックフェラー研究所(現ロックフェラー大学)の研究員として雇われる。以前、対処療法の歴史で触れたが(【RolfingコラムVol.105】参照)、ロックフェラー大学といえば、対処療法を推し進めていたロックフェラー財団が支援している大学だ。ルーツが対処療法の中心地であるところが興味深い。

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実際に、ロルフィングのトレーニングの最初に解剖学や生理学が入っているということは、対処療法の考え方をリスペクトしているということを感じることができる(【RolfingコラムVol.5】参照)。

最終的に、College of Physicians and Surgeons of Colombia Univ. でPhD.を取得。専門は西洋医学の基礎となる生化学だった。私の博士号(PhD.)取得の際に専門としたのは生化学と分子遺伝学が結びついた分子生物学。奇しくも専門が似ているところになんらかの縁を感じる。ロックフェラー研究所で研究員として働き続け、脂質に関する論文を多数Publishした。最終的にはAssociate(助手)のポジションを得ることになる。

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研究員の時代に西洋医学に留まらず、様々な分野の知識を吸収。数学、物理学、ホメオパシー、オステオパシーなどを学ぶ機会があり、スイス、ドイツ、フランスを訪れたそうだ。

ホメオパシーは、

「病気とは症状そのものであり、健康な人間に対して同じ症状を引き起こす薬をできるだけ少量投与することによって病気を治療できる」

と考える。症状の要因が合併して起きると考え、最終的に過去の病歴を追っていくことで究極の症状の要因を探っていく。

1918年には、米国に22のホメオパシー医科大学(全体の22%とも)、100以上のホメオパシー病院、1,000を超すホメオパシー薬局があったそうだ。その頃を生きたIda RolfはスイスのジュネーブでMateria Medicaというホメオパシーの学術誌を読み漁ったそうだ。

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オステオパシーは、整体やカイロプラクティックと似ているところもあるが、骨格のみを調整するのではなく、運動器系、動脈、リンパなどの循環器系、脳神経系の脳脊髄液なども含め医学的な知識にもどついて施術を行う。アメリカでは、医学部の大学院(4年課程)と同じようにオステオパシーの大学院(4年課程)があり、人体に関する深い知識が必須となる。

Ida Rolfは、オステオパシーから

「身体の構造が身体の働きを決める」

ということ

ホメオパシーにより、

「症状の根元に迫っていくこと」

ということをそれぞれ学んでいく。ロルフィングの5原則でいえば、Wholismに相当する(【RolfingコラムVol.68】参照)。

筋膜に注目するというロルフィングの特徴のヒントを与えたのが、Alfred Korzybskiの一般意味論(General Semantics)からだ。

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Korzybskiは

「Map is not the territory(地図はその場所を示しているわけではない)」

と述べているが、症状(場所)があったとしても身体全体(地図)からみて、症状の場所ではなく全体からみるべきであり、その際筋膜が鍵となることに注目した。

すべての筋膜は重なりあい、繋がって一つの大きなネットワークを形成している。筋膜をピンと張った一枚の布として例えると、布の末端にシワがよると、全体の張り具合に影響を与える。

このことから、

「症状の治療を行うのではなく、全体からみてバランスを調えていく」

という発想に行き着く。

ヨガについては本コラムで以前触れたが(【RolfingコラムVol.84】参照)、Ida Rolfによると、

「ヨガのアーサナ(ポーズ)の主要な目的は、骨と骨との間のスペースを広げること(このスペースは関節)。すなわち、ヨガというのは、身体が伸びる必要があり、身体の両側が引っ張りあうか、回転するかによって実現する」

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という。そこで、筋肉というのは2つの方向性を与えることで初めてその働きが最大限に生かされる。筋肉を輪ゴムに例えて言うならば、左右の2方向に力を与えると、筋肉の間のスペースが広がるといえばわかりやすいかもしれない。

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ロルフィングの5原則でいえば、2方向性(Palantonicity)に相当する(【RolfingコラムVol.68】参照)。

Ida Rolfが家庭の事情で大学を20年代に退職し、ロルフィングと呼ばれるボディワークを1940年頃に開始。1950年代には教え始める。当初は、オステオパシーやカイロプラクティック向けに1週間の単位で研修を行っていた。やがて、テクニックを重視するオステオパシーやカイロプラクティックの考えに賛同できず、テクニックよりも哲学を重視する考えを広めるために、自分で10回シリーズの設計を行い、Esalen研究所やボルダーで教えるようになっていく(Esalenについては【RolfingコラムVol.94】【RolfingコラムVol.95】参照)。

ごく簡単に、ロルフィングの歴史を代替医療の歴史から考えてみた。また、このテーマについては今後とも考えていきたい。

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