2015年7月14日

【P#20】医薬品の開発(8)〜薬価(2)〜仕組みと保険制度

医薬品の開発において薬価制度(薬の値段が決まる制度)の理解は重要であることは、前回(【製薬コラムVol.9】参照)で触れた。一度薬価が決まると、2年おきに価格が減額されていくからだ。

医薬品の薬価の計算方法(算定)は、類似薬効比較方式を基本としている。類似している薬を基準に1日使用分の価格が同じになるように計算する方式であり、市場での公正な競争を確保するという考えが前提となっている。

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類似した薬とは、1)効能・効果、2)薬理作用、3)組成・化学構造式、4)投与形態、剤形区分、剤形・用法の4つの観点から見て、もっとも類似性が高いもの(最類似薬)が適用される。最類似薬の1日薬価(1日あたり服用分の薬価)に合わせて計算。例えば、

<類似薬> A錠 薬価150円/錠、1日2錠

1日薬価=150円×2錠=300円

<新薬> B錠 薬価X円/錠 1日1錠

1日薬価=X円×1錠

従って、新薬Bの薬価は300円/1錠=300円のように算出する。

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一方で、薬価基準に類似薬が収載されていない場合も出てくる。その場合には、原価計算方式が取られる。製造(または輸入)原価、販売費、営業利益、流通経費などを積算することで薬価を算出する方式である。

原価計算方式による薬価=製品製造原価+販売費・一般管理費+営業利益+流通経費+消費税

この場合には、ベースとなるのが、製薬企業あるいは輸入業者から提出される原価に関する書類である。一方で、同一組成の医薬品が外国で流通されている場合には、その平均価格との調整を行う。

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この二つの方式に加え、新薬品によっては各種の補正や調整が行われる。補正には、画期性加算(画期的新薬に対して)、有用性加算(有用性の高い新薬に対して)、市場性加算(市場規模の小さな薬に対して)があり、それぞれに対応する加算率が定められている。また、調整には外国平均価格調整と規格間調整がある。なお、Premium Priceというのは有用性加算に相当する

外国平均価格調整は、類似薬効比較方式で薬価が定まったとしても、外国の平均価格を上回るか、下回るかによって調整する方式である。ここでいう外国とは、米国、イギリス、ドイツ、フランスに限定されている。一方で、規格間調整は、薬価と有効成分の含有量の関係を調整するために設けており、最類似薬の薬価と有効成分の含有量との関係が同じになるよう規格間比を算出し、調整する。具体的には、1.5倍を上回る場合には引き下げ、0.7倍を下回る場合には引き上げる。

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欧州各国は、ドイツ、フランスを筆頭に、ほとんどの国で公定価格であり、その価格を抑制するための引き締め策は厳しさを増している。「医療・福祉の向上はあくまでも公共主導」を考える欧州各国は、俗に「医薬品業界いじめ」ともいわれる公共的な抑制介入策によって薬価基準を強く押さえつけており市場は伸び悩んでいる。

一方、何事も民間主導の米国は、公定価格制度を導入せず、民間の市場原理に委ねる施策がとられている。医薬品の価格は、一部の公的保険の償還価格を除いて、一元的に決められる薬価は存在せず、製薬会社と医療機関やHMOなどのマネージドケア(managed care)の交渉で決められている

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ここで、米国の健康保険について少し触れたい。アメリカの健康保険は様々だが、大まかに伝統型(indemnity)とマネージドケアの2つのカテゴリーに分類することができる。伝統型というのは、患者が自分で選んだ医師や病院にかかって、後から治療費を保険会社に請求するという従来の方式。マネージドケアとは、患者が保険会社と契約している医師や病院にかかって、治療費のうち自己負担分(co-payment)だけを支払う形式になっている。

マネージドケアは、米国の主流となっている医療保険であり、患者(需要側)と医療機関(供給側)の行動を管理することで、医療の質と費用をコントロールするシステムである。つまり予算を計画的に運用するため、受診や診療の内容や価格を管理し、予防活動に資源を分配する。マネージドケアには、HMO(Health Maintenance Organization)、PPO(Preferred Provider Organization)及びPOS(Point of Service)が知られている。HMOは、指定のかかりつけ医師(Primary care physician:PCP)を通さなければ、いかなる専門医の診療を受けられないタイプで、定額保険料を支払えばHMOが契約した医療機関で包括的な医療を受診できる。PPOは、数多くの加盟医師の中から好きな医師を選んでかかれるタイプで、比較的安い価格で出来高払い制に基づいた医療、健康管理を請け負わせることが可能である。POSは、HMOとPPOの双方の要素を持ったタイプで、保険会社が契約した医療機関のみならず、契約外の医療機関も選択できる。しかし、契約外の場合には自己負担額が大きくなる仕組みになっている。

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伝統型の場合は、医師の選択に制限はないが、自己負担額掛け金(premium)はマネージドケアと比べて高い。マネージドケアは、医療費の高騰を抑えるために生まれた保険形式のため、自己負担額や掛け金は伝統型に比べ低い傾向にあるが、治療の制約が大きくなる。

マネージドケアの導入の背景には、特定の病気に対する予防、診断、投薬、治療を含む対処方法をパッケージ化し、有効性の高い医薬品の利用を促せば、トータルの医療費は抑制すること出来るという考えがある。ここでのポイントは「有効性の高い医療品を処方する」である。そこで製薬会社側では、自社品をマネージドケアの処方集(Formulary list)に掲載する努力を行う。このことから、米国では、保険会社に製薬会社側が説得するためにEvidence Based Medicineや医療経済という考え方が発達してきた。

更に90年代半ばには医薬品の費用対効果を高め、トータルの医療費を節減する医薬品を選定、メーカーとの仕入れ交渉を行い低価格でマネージドケアや医療機関に提供するPBM(Pharmaceutical Benefit Management firms:薬剤給付管理企業)という企業や組織が活躍するようになる。米国政府も、もちろん健全な市場原理を促すための最低限の振興策や公共策は投入するが、特許制度の浸透などにより(【製薬コラムVol.8】参照)、医薬品価格は全般に上昇傾向。マネージドケアの普及に努力してきた米国経済のパワーが、医療用医薬品市場の安定成長をもたらしつつある。が、フランスやイギリスに比べれば、高いもので3-5倍もの価格差が見られる。

次に保険制度についてもう少し書きたいと思う。