2015年7月18日

【P#23】医薬品の開発(11)〜マネージドケア

本コラムにてマネージドケアについて3回触れてきた(【製薬コラムVol.10】【製薬コラムVol.11】【製薬コラムVol.12】参照)。その他のトピックに移る前に、再度この仕組みについて紹介したい。米国の医療制度を理解する上で、このキーワードを理解すると分かりやすくなるためだ。

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マネージドケアは、「医療サービスへのアクセスやサービスの内容を管理・制限することで、限られた財源の元で効率のいい医療サービスの提供を目指すこと」を目的に行われている。

理論的には、医療サービスの管理・制限の方法には以下の3つがあるという。

  1. 医療サービス価格の値引き
  2. 医療サービスのアクセスの制限(かかりつけ医師、利用審査(Utilization review))
  3. 市場原理を働かせる(コストの安い健常者を優先、大企業の顧客優先、有病者の保険加入困難)

コスト削減のためにはまず医療機関へのアクセスを制限することが一つの方法。そこで、マネージドケアでは、かかりつけ医師(Primary care physician:PCP)が保険会社にとっての門番となり、患者が勝手に救急病院で受診したり、専門医へ受診したりすることを制限するようにした。

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マネージドケア組織は実質的に保険会社ということもあり、医師、病院に値引き交渉をすることになる。もし、医学的に根拠があるかどうかの判断が迫られた場合、利用審査(Utilization review)で審査が行われる。もし医学的必要性が認められない場合は、コストがカバーされないことを事前に通達される。ここで問題として利用審査は、医師でない経営学の専門職や会計士によって行われることもあることである。このようなことから医療的根拠も求められるようになり米国を中心にエビデンスに基づく医療(EBM(Evidence Based Medicine))が盛んになってきた。

保険会社が主導になるため、営利目的で動かざるを得ない。そこで、健常人を集める傾向が強まり、たとえば大企業との大口契約をとるようになる。逆に有病者は保険に入りにくくなる。このことから、無保険者への増加が進んでいくことになる。

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マネージドケアには、【製薬コラムVol.10】で触れたようにHMO(Health Maintenance Organization)、PPO(Preferred Provider Organization)及びPOS(Point of Service)が知られている。又これを総称してMCO(Managed Care Organization)と呼ぶこともある。

HMOは、指定のかかりつけ医師(Primary care physician:PCP)を通さなければ、いかなる専門医の診療を受けられないタイプで、定額保険料を支払えばHMOが契約した医療機関で包括的な医療を受診できる。PPOは、数多くの加盟医師の中から好きな医師を選んでかかれるタイプで、比較的安い価格で出来高払い制に基づいた医療、健康管理を請け負わせることが可能である。POSは、HMOとPPOの双方の要素を持ったタイプで、保険会社が契約した医療機関のみならず、契約外の医療機関も選択できる。しかし、契約外の場合には自己負担額が大きくなる仕組みになっている。マネージドケアは、医療費の高騰を抑えるために生まれた保険形式のため、治療の制限がある。

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多くのマネージドケアには、医療機関で使用できる処方せん薬のリストがある。というのは特定の病気に対する予防、診断、投薬、治療を含む対処方法をパッケージ化し、有効性の高い医薬品の利用を促せば、トータルの医療費は抑制すること出来ると考えているからである。そのパッケージのことをFormularies(フォーミュラリー)推奨処方薬リスト(Preferred Drug List(PDL))、または償還処方薬リスト(Reimbursed Drug List)と呼ぶ。これは、保険でカバーされる処方せん薬と自己負担額をリスト化、高額なものについては負担を保険加入者に転嫁する方法である。このため、安価な医薬品の処方を促すことが可能となる。

PDLの特徴として

  1. 後発医薬品を高い割合で入れること(保険会社)
  2. 医学文献、臨床データ、診療ガイドライン(EBM、経済性などを重視)(医療機関)
  3. PDLの効果的な構成は経済的メリットもあるので、卸や製薬企業との契約も考慮(卸、製薬企業)
  4. 原則として、同じ薬効の同種類の薬剤については複数採用されず、経済効果の高い方が採用。

PDLは、通常医療機関内の検討委員会で医師、薬剤師、看護師を交えて検討が加えられる。承認を受けたものについてはPDLへ収載される。なお、この場合の承認の制度を事前承認制度と呼ぶ。そして、PDLに収載されていない薬剤を医師が処方したい場合には、事前に院内の専門委員会又は専門ドクターから承認を得なければならない。このようなことから薬剤の選択も、医師からPDL(保険会社側)へと完全に移行している

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製薬企業にとって、PDLへ採用されるか否かは死活問題である。このため、自社品をマネージドケアのPDLに掲載してもらう努力を行うことになる。そこで、1997年に米国ではDTC(direct to consumer)と呼ばれる一般消費者向けの広告宣伝が解禁となったことから自社品の認知度を高める方法をとるようになった。また、一方で、PDLへの収載と引き換えに製薬企業は薬代を安くするといったことも行われている。

このように米国では治療の方法を含めた医薬品の選択が医師から保険会社側(PDL、マネージドケア)へ移っているというのがお分かりいただけたと思う。そのため、製薬会社では、保険会社側との窓口としてMarket Accessという部署を設立。盛んに交渉が行われるようになってきた。

次回は、当局の審査、審査報告書と添付文書をキーワードに説明していきたい。