【R#129】セラピスト(5)〜破綻と変化

吉福伸逸氏のセラピストとしての考えについては、4回にわたって紹介してきた(【RolfingコラムVol.96】【RolfingコラムVol.97】【RolfingコラムVol.99】【RolfingコラムVol.101】参照)。
ベースした本は「吉福伸逸の言葉」。
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吉福氏の言葉を教え子たちが集めることによって一冊にまとめられた。セラピストとしてクライアントに対峙するために、下記の「心の4つのレベル」を参照すると、どこに注目して話を聞き出せばいいのか?が中心に述べられている。

  1. Power of Becoming(関係性の力)
  2. Power of Being(存在の力)
  3. Power of Emotion(情緒・情動の力)
  4. Power of Brain(あたまの力)

各々の詳細については、【RolfingコラムVol.96】に書いたので、是非ご参照いただきたい。
2015年7月に、吉福伸逸氏の「世界の中にありながら世界に属しない」の出版で、吉福氏がセミナーでどのような話をしたのか?がまとまっているのだが、これも面白い。
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例えば・・・
私が、ロルフィングを志したのはコーチングやタロットを実践した経験を通じて、言葉の限界を感じたからだということをどこかで触れたことがあるが、吉福氏は以下のようにそのことについて言及している。
日常生活でもセラピー(心理療法)のセッションでも、あらゆる瞬間に、一人の人間が感じたり、理解することをはるかに超えたもの、言葉を超えたものがあるんです。けれども、説明を聞いてしまうと「私は知っている」という気になる。「知っている。わかっている」という意識が経験と自分の間に入ってきて、一 種のブロックになってしまうのです。体験的に実感していないままだと、上滑りのような形でしかなくて、みずからにまったくおよんでこないんです。つまり、 安全で安心な状態のままで、あらゆることを「わかった、理解した」と思って終わってしまう場合が多い、自分が追い詰められて危機状態になることがないんですね。だから、僕はある時期から言葉や理解ということを避けて、ほとんど何も説明せずにワークショップをやってきたのです」
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言葉というものは、過去の経験に照らして表現されがち。結果的に変化しようとしている自分に対し、ブロックして働いていく。だからこそ、自分の判断を極力くださず、相手に考えさせること、相手に答えがあるということを気づかせることが大事だと思う。
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吉福氏は、人間というのは成長しないものであり、現状を維持することに腐心すること。だからこそ、現状に対して一度破綻させることの意義について下記のように述べている。
「実際にいろいろな人と出会ってセラピーをやってみても、人はなかなか成長しない。人間の成長というのは大きな幻想だと僕は実感してきたんですね。ただ、 そう思っても作業はずっと続けていったわけです。そうして僕が多くの人を見て思ったのは、子供から成長していき、ある程度のところまで来るとそこで成長は止まってしまい、その先にはいかなくなる。それからあともほぼ変化を起こすことはない」
「自我は現状維持に常に腐心しているからです。極めて保守的なんですね。その自我を最も脅かすのが現状の破綻なんです。その現状を破綻させることによって「あなたの立場は私の全てを支配している立場ではない。一歩さがりなさい」と自我に自分のいる位置を教えるんです」
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具体的に書くと、何もしないままキッパリと仕事を辞めるというのが、その力を養う一つの方法だという。明日からどう暮らしていけばいいのか、わからないけど仕事を辞める。そして次に移るまで時間をかけること。それによって存在の力がつくという。肩書きや自分を守ること、他者に弱みや悪口を言われることに対して動じなくなるからというのもある。
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吉福氏の言葉を更に借用しよう。

「ぼくのセラピーでは常に破綻することを勧めてきました。その人が今置かれてる状況の中で破綻すれば、成長とは呼べないまでも変化があるからです」
「その後どうなるのか。そんなことはぼくの知ったことではありません。さっき言ったように、少なくとも現状維持を止めれば、変わらざるを得ない側面がいくつも出てくる。そこから新しい人生を始めればいいというのがぼくの考え方です」
ロルフィングのセッションを提供するようになって、気付くことといえば自分自身の出来ることに限界があるということ。そして、変化やプロセスは結局、温かく見守ることしかないことなのかもしれない。
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そのことを考えると、ロルフィングのPhase III(最終段階)トレーニングの最終日が近づいた際、インストラクターだったJörg先生とAndrea先生は以下のように言っていたことを思い出す(【RolfingコラムVol.82】参照)

結局、ロルフィングができることは、クライアントに対して何か付加価値を与える(例、治療すること)ではなく、クライアントに対して気づきを与えることぐらいしかできない。そして自ずと、本人にとって適切だと思うこと選択していく。

最後に吉福氏のセラピストについてどのように考えているのか?セラピスト観について彼の言葉を引用して本コラムを終えたい。
「「なぜセラピーをやっているのか?」「なぜ、自分は人を救おうとしているのか?」そういう風にぼくは心の中で思いながら、何十年間もセラピーをやり続けているんです。僕がセラピーをやり続けているのは人を救おうと思っていなくて、とても勝手で、自分の欠損を補うために必要だと思うからやっているのです。これは鍵になることですから、忘れて欲しくないんです。本当に矛盾して話が合わないと思うかもしれませんが、ポイントはそこにあって、人は何かを思うから生きて行動し、人生を送っているのではなく、必要性があるから生きて、こうやっているんですね」
「そのポイントさえ押さえておけば、人に本当に嫌われるセラピーができます。なぜ人に嫌われることが大切かというと、僕の考えるセラピーは、当人が絶対に認めたくないことを認めてもらうということだからです。「あんたがあんたのような状態で、今そこにいるのは全部あんたのせいなんだよ」とぼくはいうわけです。どんなに嫌なことが自分に起こっていたとしても、その嫌なこと、それをやっているのは社会でもなければ他人でもない、自分自身がやりたいからそういうふうになっているんだということなんです。そういう言い方は一般社会では嫌がられます。(略)
一人の人間が、自分自身の妄想や投影で作りあげた社会の中で、うまく機能していない場合は確実に社会を責める。だけど、それを責めなくなると、そこで初めて自己が確立されたことになるのです」
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