2017年8月14日

【B#62】アートと経済(1)〜企業にとってなぜ観察力や美意識は大事なのか?

以前、弁護士で美術史家であるエイミー・ハーマンの「「Visual Intelligence – Sharpen Your Perception, Change Your Life」(邦訳:「観察力を磨く・名画読解」)」を本コラムで取り上げたことがあった(「アートの本を通じて〜観察力をどのようにして磨くのか?」参照)

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ハーマンは、観察力・分析力を高めるために絵画作品を取り入れ、「Art of Perception Course(知覚するための絵画コース)」というセミナーを開催。人物や現場で起きる出来事について、最も観察力が求められるFBIやアメリカ陸海軍、警察の人たちが本コースの顧客として参加しているため、本の内容は観察力に絞り、わかりやすく説明している。

実は、グローバル企業においてもアートや観察力を取り入れた教育が盛んに行われているらしい。

山口周氏の「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか〜「アート」と「サイエンス」」によると、

英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートは、修士号、博士号を授与できる世界で唯一の美術系大学院として知られているが、最近「グローバル企業の幹部トレーニング」がビジネスとして拡大中。そこに、グローバル企業が幹部候補生を送り込んでいるという実態があるという。

「なぜそういったことが起きているのか?」

美意識=直感、感性というキーワードで、経営に必要な視点を取り上げている。

興味深かったのは、経営における意思決定のクオリティは「アート(ワクワクするビジョンを提供)」「サイエンス(体系的な分析や評価を通じて、ビジョンに、現実的な裏付けを与える)」「クラフト(地に足のついた経験や知識をもとに、ビジョンを現実化するための実行力)」という3つの要素のバランスと組み合わせることによって大きく変わるという。

でも、このバランスは崩れやすいということを、「アカウンタビリティの格差」という言葉で説明していく。

アカウンタビリティというのは

「なぜそのようにしたのか?」

と後で理由をしっかりと説明できるということ。

この点では、サイエンス、クラフトに分があり、アートは分が悪くなるという。そもそも、いいデザインというのは、直感的に素晴らしいわけで、論理的に説明するというのは難しいわけだから。

結果、サイエンスとクラフトを軸に起きやすくなる。そのようにして、アカウンタビリティを過剰に重視すると、天才は活躍の場を失われていく。論理的かつ理性的な答えは訓練を受けた人であれば遅かれ早かれ到達するので、みんな、同じような結論にいたる。

結果、市場は競争が強くなる場となり、スピードとコストカットという、従業員が疲弊していく現実が現れていくということを取り上げている。

では、「アート」はどのように役立つのか?

それは論理、法律や市場調査などの「客観的な外部のモノサシ」を使うのではなく、自分の立ち位置をしっかりと見定めた上で、直感、道徳、倫理、美意識といった「主観的な内部のモノサシ」に従って意思決定をする際に役立つという。

事例としてあげているのが、茶道の千利休、アップルのiphoneやマツダのデザインなどだ。

そして、美意識を鍛えるためには「見る力」を養うことが大事だという。

なぜなら、サイエンスの世界にいて実感することなのだが、専門家であればあるほど、能力を高めていくために必要なのが、

パターン認識力=過去に見たことをベースに類推する力

そのことでかこに有効だった答えを出すことで効率をはかることができる。しかし、今の世の中は過去のパターンは永遠に持続することはなく、どこかで突然変異が起こる。

例えば、IT企業のGoogleがカーナビや地図を扱い、Appleが携帯や音楽の配信をするのはパターン認識力から生み出すのが難しい。

興味深ったのは、同書では、

「エジソンと実験工房という二つの言葉の共通点は何ですか?」についての問いを通じてパターン認識の弊害について書いているが、大人は、発明。子供は工と答えるという。なぜこのように答えるのか?子供は文字を見るのに対して、大人は文を読んでしまうからだという。

このように純粋に見るということを通じて、アートを見る。それが経営や人生の判断に有用とのこと。もう少しこのテーマについては今後深掘りをしていきたいと思う。