2018年9月6日

【R#193】環境に応じて脳は自ら変わることが出来る〜脳の可塑性について

ロルフィングは、身体を整えるボディワークの一つ。

筋膜へのアプローチや身体のゆっくりとした動きを使って、身体を整えていく。

4年前に、早朝のアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガの練習が劇的に変化(「出会い〜ヨガのポーズを深めるため、様々な方法を試す中で発見した」参照)。肩こりもよくなった。インパクトが強かったため、会社を辞めて、ロルフィングの資格を取るためドイツで勉強することになった。そして、現在セッションを提供するまで至っている。

ただ、

「ロルフィングって何?」

って説明する段階になると、迷うことが多い。

最近、

「人間は環境に応じて、脳は自らの構造や機能を変えることが出来る」=「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

というキーワードを使って説明するようにしている。

ノーマン・ドイジの「The Brain that changes itself(邦訳:「脳は奇跡を起こす」)によると、

医学の世界では、

長年

「脳は変化しないもの」

と信じられていた。

理由として、

1)脳に障害を持つと回復がほとんどできない

2)生きた脳の状態を顕微鏡で観察することができない

3)脳を機械的に見るという思想

を挙げているが、

大きいのは、脳を構成する神経細胞は一回障害を受けると、再生されないという事実がある。

しかし、

1960年代から1970年代にかけて、

「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

ことが注目され、

「脳の可塑性(Neuroplasticity)」

(脳(神経)細胞(neuron)と可塑性(plasticity)(=変化できる、修飾できる)の造語)

が語られるようになった。

今では、外からの刺激によって、脳の働きや構造が絶えず変化することがわかってきている。

なぜ

「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

が面白いかというと、

神経細胞が減っていく老化や、神経細胞が変性して行く病気(パーキンソン病、多発性硬化症、痴呆症等)が起きたとしても、

「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

ことを利用すると、これらの疾患が改善する可能性があるからだ。

ノーマン・ドイジの続編「The Brain Way of Healing(邦訳:「脳はいかに治癒をもたらすか:神経可塑性研究の最前線」)」では、脳卒中、自閉症、パーキンソン病、慢性の痛み、多発性硬化症、視覚障害といった神経に関わる病気に対し、「脳の可塑性」を使った治療で劇的に改善された症例が紹介されている。

身体の何らかの障害によって、激しい痛みが一定期間続くと、痛みと関連する脳の神経細胞の結合が強化。回路が再編成されることで、痛みの信号が、過剰に検出されるようになってしまうことで、慢性の痛みが起きることが知られている。

そこで、医師のマイケル・モスコヴィッツは、ちょうど痛みが出るところに、特定の視覚化の作業を行うこと(具体的には、自身が描いた脳マップを思い浮かべること)で痛みの軽減を図る。というのは、視覚に関わる部位のなかで、後帯状皮質、後部頭頂葉は痛みの処理に関係すると言われているから。

つまり、視覚を使い、脳が変化するという性質を使うことで、痛みを弱める戦略でもある。

実際に、これは功を奏しているというのが驚きだ。

他にも視力の低下に筋肉の緊張が関わっていることから、筋肉を緩めるために、脳が変化する性質に働きかける、ベイツ法、歩くことでパーキンソン病の症状が改善するなどの事例も本書の紹介にあった。

いずれも

「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

という特徴を使ったもの。

実は、ロルフィングも、

「新しい身体の使い方を教えるために、脳へ働きかける」

一つの方法といえる(過去に本コラムでボディイメージとボディスキーマについてまとめたことがある(「心理的、知覚的な変化〜身体地図」参照)。

筋膜を使って、脳にここに手・足があるんだよと伝えていくことで、セッションは進むのだが、新しい習慣に馴染むまでに、ある程度時間がかかる。

そのため、一定の間隔をとってセッションを行うのだが、興味深いことに、肩こり、腰痛を含めた身体の不調が改善されていくのだ。

このように

ロルフィングも

「環境に応じて、脳は自ら変わることが出来る」

ことを使うのだが、まだ、この分野は研究途上だ。

「脳の可塑性」は、再生医療と並んで発達する可能性のある分野。今後とも注目していきたいと思っている。