2018年10月25日

【B#96】人と常在菌との関係〜常在菌へのアウトソーシング

過去に、サルファ剤(「西洋医学がどのようにして今の地位を築いたのか?〜医師の地位と画期的な薬の出現」や抗生物質(「抗生物質の発見〜感染症の撲滅+家畜への応用+耐性菌の出現」が開発、販売されることで、医療の環境がどう変化したのか?そして、感染症が対処できる病気になることを書いてきた。

さて、人には害を及ぼす感染症(病原菌)も知られているが、人の病気を防ぎ、働きを助ける細菌もある。

いわゆる常在菌だ。

マーティン・ブレイザー「失われてゆく、我々の内なる細菌」には、常在菌についてわかりやすくまとまっているので、同書を参考に、他の情報源を織り交ぜながらまとめていきたい。

人の身体には、合計で100兆個の常在菌(1,000〜5,000種類存在すると推測されている)が存在し、人間の全細胞数(30兆個)より多い。

常在菌を全てを集めると重さが3ポンド(1.3 kg)に及ぶ。この重さは、脳とほぼ同じだ。

米国のNIH(アメリカ国立衛生研究所)では、2007年から、Human Microbiome Projectが計画(費用は1.7億米ドル(約190億円))。

250人の健常人の口から検出される微生物のDNAの解析が進められた。

背景となったのが、DNAの解析のコストが下がったこと。

実は、人を含め全ての生物には、DNAと呼ばれる設計図が細胞の中にある細胞核の染色体に格納されている。

DNAは4つの文字(アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)と呼ばれる4種類の塩基)で暗号化されており、人では、3o億の文字(塩基対)にも及ぶ。

DNAの全情報は、ゲノム(Genome)(Gene(遺伝子)+chromosome(染色体)の造語)と呼ばれ、1990年から27億ドル(約3,000億円)の予算を使って、20の国際機関が人のゲノムの情報の解読が行われた(’The Human Genome Project Completion: Frequently Asked Questions‘ 参照)。

2003年4月に計画が終了。人には20,000 – 22,000個の遺伝子があることがわかった。

他の生物の遺伝子の数を比較すると、

人:20,100個

チンパンジー:20,000 – 23,000個

犬:19,300個

マウス:22,500 – 30,000個

ショウジョウバエ:14,000個

米:46,000 – 55,600個

が知られている(「A Guide to Your Genome – National Human Genome Research Institute」参照)。

意外と、人と他の生物との間の遺伝子数に大差がない。

さてDNAの解析コストについて。

2001年9月は、9,526万米ドル(約106億円、1ドル=112円で計算)の費用と解析するのに時間もかかった。

ゲノム解析を終えた後、米国国立ヒトゲノム研究所(US National Human Genome Research Institute (NHGRI))の主導で、10万米ドルと1,000米ドルで全ゲノムを解析できる技術の開発者に支援。

97の研究グループ(’Technology: The $1,000 genome‘参照)の研究計画が採用され、科学研究費が支給された。

その結果、2017年7月に1,121米ドル(約125,000円)まで下がった(下記のグラフを参照)(「DNA Sequencing Costs: Data」参照)。

全ゲノムの解析は、わずか13万円程度でできるようになった。

「将来、自分はどの病気になるのか?」

「どのような薬が効くのか?」

等、解析コストが下がると、一人一人が個人情報としてこれらを知ることができるので、メリットも大きい。

実は、常在菌の研究も、DNAの解析コストが下がることで飛躍的に進んだ。

常在菌は、生育環境から取り出して、実験室で、適切な栄養を与えて増やした上で、微生物の性質を決める必要があった。

この方法だと微生物を取り出した時に、増えるものしか選ぶことができない。

小腸・大腸の常在菌は、酸素が薄い、酸性の強い条件で生きているが、実験室でこのような条件下で育てるのは難しい。一方で、常在菌には必ず、DNAがある。

少量のDNAさえあれば、微生物の性質を決めることができる。DNAの解析コストが下がった今、常在菌を育てなくても、DNAで鑑別できるようになった。

結果、常在菌は、200万個の遺伝子を持つことが分かった。人の全遺伝子が20,000 – 22,000個と考えると、なんと、人の身体の中で99%近くは微生物の由来の遺伝子となる。

常在菌は、人の代謝を手助け、人が取り入れる食品の中で、常在菌は15%のカロリーを消費。例えば、口から取り入れた、食事は、小腸に存在する常在菌が栄養としてカロリーを消費。消化したのちに吸収される。

そして、肥満に関わる菌、妊娠中に胎児の生育環境を育てるための菌の存在や常在菌の種類が多い人よりも少ない人の方が肥満である可能性が高いこともわかってきた。

このように、人の大部分の機能を微生物にアウトソーシングしていると考えると、人の遺伝子の数がなぜ他の動物と近いのか?の謎が一つ解けると思う。

人が持っている常在菌とゲノムを調べることで、病気や薬の効き方、どの食事をとったらいいのか?がわかってくる可能性がある。しかも、常在菌の状態を知るためにかかるコストは、100米ドル(約11,400円)まで下がっている。

次に、食事と常在菌との関係について書きたい。