2018年12月11日

【B#102】遺伝子組み換え技術と食品〜GMOをどう理解したらいいのか?

本コラムで以前、有機農業の歴史及び日本での普及率について、マイケル・ポーランの「雑食動物のジレンマ(Omnivore’s Dilemma)」を参考に取り上げた(「有機農業の歴史〜化学肥料、農薬、地力低下(欧米)、公害問題(日本)」。

本書では、遺伝子組み換え食品(Genetic Modified Organism、以下GMO)について、モンサント社とGMOに関して少しは取り上げられたものの、政治と企業との関係がメインで、詳しくは紹介されていなかった。

そこで、有機農業と遺伝子組み換え食品についてそれぞれの長所・短所について書かれたものはないかな、と思っていたら、You tubeにTEDでプレゼンされた動画が公開されていた。

 

GMOについて、植物の病気やストレスに対する抵抗性遺伝子を研究している研究者、パメラ・ロナウド博士が熱く語っており、遺伝子工学の技術によってパパイア産業の危機を救ったことや、洪水に対して抵抗性が強い遺伝子組み換えイネ等の実例が取り上げられていた。

同研究者は、2008年に「Tomorrow’s Table – Organic Farming, Genetics, and the future of Food」(日本語訳:「有機農業と遺伝子組み換え食品:明日の食卓」)を出版。

詳細に現状について語っているので、2018年3月に改定された第二版(最新版は未翻訳)を入手。

化学肥料、有機肥料のそれぞれを使った作物を比較した上で、遺伝子組み換え技術がどう役立っているのか?

それぞれの道の専門家が書いている。しかも、主人は有機農業の実践家、夫人は遺伝子組み換え作物の研究家という面白い組み合わせ。本は面白くないわけはないと思い、読み進めていった。

「技術云々ではなく、環境や消費者にとってどの農業がいいのか?」。

が一貫したメッセージ。

例えば、

化学肥料農業は高収穫、低価格を目指したもの。

有機農業の目的は、土、作物、農民、環境、消費者の健康を考えるために実践されるもの。

化学肥料を使った農業は雑草や害虫の問題から、殺虫剤や除草剤が大量に使われる。殺虫剤や除草剤は人の健康や土に大きな影響を与えるので、有機農業が推奨されるようになってきているが、有機肥料に変えたとしても、環境がよりいい分、雑草や害虫の問題が解決できないケースが多い。

そこで、役立つのが、遺伝子組み換え技術。

遺伝子組み換え技術の歴史は、1974年から始まる。

ポール・バーグがウィルスの実験で外来遺伝子を大腸菌内で増やすことに成功。やがて、医薬品に応用され、大腸菌や酵母で糖尿病の治療薬の1つ、ヒトインスリンを生産するまでになった。ちなみに、私は、ヒトインスリンの遺伝子を改変した長期持続型と速効型のインスリンを販売する製薬会社に勤めていた。その後、成長ホルモン、抗がん剤、関節リウマチ、血友病(生物製剤)、腎不全の増血剤等。

2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑教授と小野薬品工業によって開発されたオプシーボは、遺伝子組換え技術によって作られた医薬品だ。

参考に、植物の場合には、土の中に生息している土壌細菌のアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)は、植物に感染し、自分の遺伝子を植物の中に取り込むことができる。その性質を使って、除草剤耐性遺伝子を植物へ取り込んで、GMOの作物として生育する。

以前は交配を通じた品種改良が行われてきたが、遺伝子組み換え技術を使うと農家の望む性質をピンポイントで取り入れることができる。しかも、2012年にゲノム編集技術の発見により、遺伝子の一塩基単位で正確に遺伝子を変えることができるようになり、技術はさらに発展している。

植物では、洪水に対して強いイネ、ウィルス耐性のパパイア、害虫抵抗性トウモロコシ(Btトウモロコシ)が知られている。

他にも牛乳からチーズを作る際に利用されるレンネットは、以前動物から取っていたが、現在はコストが1/10で済む、遺伝子組み換え酵素が使われている。

興味深いことに、遺伝子組み換え食品を使うことによって、殺虫剤、除草剤の使用量が減る。そのことで、全米では、最大19%の石油の消費量を抑えることができるという調査報告も本には書いてあった。

では

「なぜ、GMOは、危険で、制限すべきだ!いう声が聞かれるのだろうか?」

1)遺伝子組み換えは化学合成と同じだという意識

2)科学に対して不信

3)食べて大丈夫?安全かどうかを証明するのはなかなか難しい

といった理由を著者は推測している。

大事なのは、

「持続可能な農業で環境にとって何がいいか?」

という視点だと思う。

今まで、海外の植物や医学会では、GMOに関する問題がなかったことや、GMOはどのように審査が進むのか?について本書には書かれていた。特許(遺伝子や種子)を認めるのは正しいのか?や、モンサントの話等についても、種子の権利によって高利益をあげる食品会社について課題を取り上げて、確かに問題だと感じるが、モンサントが売っている作物の安全性についてどうか?についてはそれほど知られていない現状(モンサントが発売しているラウンドアップは自然界ですぐに分解されるので、環境には大きな影響がない)についても取り上げていた。

大事なのは、食品について、現状で何がわかっているのか?

「いい・悪い」ではなく、どのように判断し、自分で食品を選択するのか?という目線が大事だと思っている。

例えば、

1) トウモロコシ+大量の合成殺虫剤と化学肥料(害虫を含まず)
2) 有機農業で育てられたトウモロコシで害虫が含まれる
3) 害虫を予防する遺伝子が組み込まれたトウモロコシ(害虫を含まず)

の質問が本書の最後に出てくるが、意外と有機農業は害虫や雑草に汚染されるリスクについて語られていないのが興味深い。将来、有機農業+GMOが主流になるという、著者の意見は全世界で考える必要があると思う。

どちらかというと不安なのは、栄養サプリメント。遺伝子組み換え医薬品、食品よりはるかに規制がゆるく、夾雑物が混じっている可能性のあるサプリメントって本当に大丈夫なの?とGMOよりも危機意識が薄いことを感じた。

もし、有機農業やGMOについて知りたい場合には、この本でも十分な情報が得られると思う。

食物に興味を持っている方で、詳しく知りたい方には是非とも進めたい一冊だ。