2019年6月11日

【P#41】医薬品の開発(13)〜『疫学』とは何か?〜医療情報をどのように判断するか?

2019年6月9日(日)、一般社団法人・日本健康機構主催の医療・健康セミナーに参加。

島根大学医学部付属病院臨床研究センターの大野智教授(以下大野先生)の「人生を損しないための情報リテラシー向上術」を聞きに人形町駅の近くにある会議室まで伺った。

朝日新聞の大野先生の記事「ヘルス・リテラシーって何?医療情報をうまく活用するには」に今回伺った内容に近いので、ご興味がありましたら是非ともご参照いただきたい。

本コラムには、大野先生から学んだことを踏まえ、私なりに感じたことを書いていきたい。

大野先生は、日本人は、健康に関する情報について「入手」「理解」「評価」し「活用」する能力=ヘルス・リテラシーが低いといっている。

「どのようにしてヘルス・リテラシーを高めていったらいいのか?」

情報が正しいかどうかを、見極める目の大切さを、例え話を交えて、科学とは何か?科学に基づくエビデンスとは何か?臨床試験、ランダム化比較試験、そしてそこからどのように判断していったらいいのか?を含め、

短時間で説明していて、本当にわかりやすかった。

もっとも印象的だったのが、

「治療法に確実なものがない」

と語っていたこと。

実は、

どんなに新しい治療法が開発されても「効果が100%の治療法はなく」、すでに行われてきている治療についても「全く効かない治療法はない」があるから。

なぜ、このようなことがいえるのか?

普通、

「正確な情報」=「臨床試験の結果で示されている」

と思われがちだが、実はそうではない。

全ての臨床試験は、100%確実なものではなく、試験で示されているから0%でもない。すなわち、0%から100%の間のグレーゾーンで治療が行われている。いわゆる「医療の不確実性」がある。

それを知るために「疫学」の知識が必要だと思う。私は製薬会社で開発・マーケティングの仕事に関わるようになってから勉強の必要性を実感。学ぶようになった。

西洋医学の治療法を説明していく際、

1)動物実験・試験管で行う実験(基礎研究)=科学

2)人で行う観察・介入試験(臨床研究・治験)=疫学

の2種類の方法がある。

前者は、

「病気はなぜ起こるのか?」

「どのような薬(食品)が効果があるのか?」

「なぜ」を追究していき、科学を使って示していく。

後者は、どれだけ「効果」があるのか?

「どのように」を追究して、疫学を使って示していく。

薬がなぜ効くのかは、基礎研究、薬の投与量を決めるのが、疫学研究となる。

今回、西洋医学の独特の考えの一つ「疫学」について書きたい。

「疫学」とは、英語で、epidemiologyのこと。

Epiは、uponは「上」、demiは、「民衆」を意味するdemos、学問や科学(science)を意味するlogyが加わった用語。

「民衆の上で何が起こっているのかを明らかにする学問」

という意味として知られている。

日本語では、疫学の歴史的背景から「疫」=感染症から来ている。これは、疫学の歴史が1850年代のイギリスのコレラ流行から始まっていることに由来している。

中村好一先生の「基礎から学ぶ楽しい疫学」(第3版)(疫学を学ぶのにオススメの一冊だ)によると、疫学は、John Snow(ジョン・スノー:麻酔科医)から始まったという。

コレラ患者の居住地をプロットしていくうちに、患者が特定の井戸の周囲に集中していることを発見。

そこで井戸を封鎖したところ患者が減少した。

これはコッホによるコレラ菌が発見される30年前の1883年。

スノーはコレラ菌の事実を知らなかったにもかかわらず、コレラの危険因子(特定の井戸)を正しく指摘し、予防(井戸の封鎖)を行った点、評価されている。

日本でも、高木兼寛(東京慈恵会医科大学の創立者)先生の脚気の解明の際にもこの原理が応用された。

明治時代の陸・海軍の悩みは兵士の脚気であった。イギリスで実践医学を学んだ高木は、脚気の原因は食事であると考え、2隻の軍艦が海外演習を行う際、一方では従来の食事、もう一方では肉や野菜中心の食事をそれぞれ兵士に提供した。

そうすると、前者では脚気が発生したが、後者ではほとんど発生せず、海軍は食事を変える事で脚気を防ぐことが出来た。注目点として、当時脚気の原因がビタミンB1不足であることが分かっていなかったにもかかわらず原因が特定できたことである。

上の2つの例が示しているように、

病気の原因がわからなくても、疫学を使うと、疾病の危険因子は何か?特定することができる。

そのため、疫学から疾病の予防対策を立てることができる。

疫学は当初、伝染病(epidemic)から出発したが、現在では生活習慣病やガンに拡大しており、喫煙とガンとの関係、塩分と高血圧、高血圧と脳卒中との関係等、疫学によって明確になっていった。

参考に、薬を使った試験(治験や臨床試験)は「疫学」の一つで、薬を投与することで、どのような疫学的な変化が起きているのか?(介入試験と呼ぶ)をみる。

「疫学」は、人間を集団として扱う。

なぜなら、

一人の人間だとその人の個性・価値観、好き嫌い、年齢や性別、過去にどのような病気を持っていたのか?喫煙、飲酒歴等。心理学的(やる気や動機)な部分が健康に影響を与える可能性があるし、偶然に起こることもある。

そこで、一人一人の違いを前提に、一定の人数=集団を集めた上で、どれだけ、治療法が役立つかをみていく必要性があるからだ。

疫学や臨床試験で大事なのは

・試験を行う目的は何か?

・対象とする集団がどのような特徴を持っているのか?

・何を測定しているのか(主要評価項目等「エンドポイント」参照)

特に、対象集団・評価項目は大事で、臨床試験をみていく際には、必ずチェックする。一人一人、治療効果にばらつきがあるので、統計学を使って「ばらつき」=「分布」の解析が行われる。

一人一人のばらつきをみて、どれだけの確率で病気が起きるのか?薬が効くのか、どれだけ偶然で起きているのか?を含めを計算する。

なので、

どんなに新しい治療法が開発されても、全てが確実ではなく、

効果が100%の治療法はない

となり、

臨床試験で示されたものは、効果がある証明でもあるので、

全く効かない治療法はない

といえるのだ。

余談になるが、臨床試験はコストがかかるので、何人を集めてくるのかは死活問題。製薬会社では、統計の専門家が必ず勤務していて、薬の臨床効果を示すために何人の患者を集める必要があるのか?計算する。

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薬の開発の一連の流れは「医薬品の開発(1)〜仕組み」に書いたが、臨床試験で、効果を証明した上で、既存の治療法と比べ、どうかを示していく。

疫学については、他にも色々と言葉が出てくるが、今回は最小限の言葉でまとめさせていただいた。