【R#299】心理的安全性という環境は、その人の「在り方」で整う

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

私は、2015年6月から、ロルフィングのセッションを提供している。かつて「整体・マッサージとの違い〜症状か構造か?」に、整体との違いについてまとめたが、筋膜へアプローチすること自体、意味があると思っている。筋膜の中に、心理的な外傷(心的トラウマ)が溜まっている可能性があり、緊張を解放することで、カウンセリング(コーチング)と同じような効果が期待できるからだ。

筋膜に変化が出るために重要なのは、環境を整えること。具体的には「心理的安全性」を確保していくことだ。今回は、セッションを提供してく中で大切にしている「心理的安全性」についてまとめたい。

「心理的安全性」とは何か?

「心理的安全性(Psychological Safety)」という考え方を初めて提唱したのが、ハーバード・ビジネススクールのAmy C. Edmondson(エイミー・エドモンドソン)教授で、「恐れのない組織:Fearless Organization〜「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」にて、その考え方が紹介されている。

「心理的安全性」について、本書から引用すると、

「Psychological safety is broadly defined as a climate in which people are comfortable expressing and being themselves. More specifically, when people have psychological safety at work, they feel comfortable sharing concerns and mistakes without fear of embarrassment or retribution.」

日本語訳:広い意味での「心理的」は、人々が自分自身を表現し、ありのままの自分でいられるような「心地よい風土」と定義される。具体的に言えば、職場での「心理的安全性」が確立していれば、人々は恥ずかしさや、報復を恐れることなく、心配事やミスを安心して共有することができる。

と同書では定義している。

「心理的安全性」が可能なのは、お互いに信頼関係が作られている時だと、以下のように書いている。

「The concept refers to the experience of feeling able to speak up with relevant ideas, questions, or concerns. Psychological safety is present when colleagues trust and respect each other and feel able – even obligated – to be candid.」

日本語訳:この考え方は、アイデア、質問、気になることに対して、自由に発言できる雰囲気を感じることにつながっている。心理的安全性があるときは、同僚が互いを信頼し尊重し、率直な意見を述べることができると感じるときだ。

医療の現場では、医療ミスが少ないよりも大事なこと

興味深いのは、エドモンドソン教授が取り上げている事例だ。

例えば、医療の現場。本来ならば、「パフォーマンスの高いチームほど、医療ミスが少ない」と考えがち。調査した結果、逆の結果になったのだ。実は、パフォーマンスの高いチームほど、医療ミスの報告の数が多いことが判明。というのも、「パフォーマンスが高いチームは、医療ミスが多いのではなく、医療ミスの『報告』が多いこと」がわかったからだ。

ロルフィングで学んだ「心理的安全性」とは?

実は、「心理的安全性」について、初めて学んだのは、ロルフィングのインストラクターのGiovanni Felicioni先生を通じてだった。基礎トレーニングに臨むにあたって、パートナーと組んで、手技を練習する際に、以下のようなA41枚のプリントが配布された。

1)練習相手で組みたくない相手を事前に申告する(組みたくない相手と組むと「安全」が担保できない)

2)相手に「アドバイス」するときに自分なりに解釈したこと(意見も含む)をいうのではなく、具体的に説明する。なぜ(why)よりも何(what)を大事に一般化するのではなく具体的に。

3)気に入られることや不愉快な思いを感じてそれを解消するために「アドバイス」することは避ける。あくまでも相手に有益になるようなことを意図すること。相手をリスペクトすること。

4)「アドバイス」を受け取ることによって自分はどう変化するのか?観察してみる。オープンなマインド(例えば、正直に、自分に対していたわる気持ちで)になること。内容がわからない場合には聞く。理解するのに時間をかけること。

5)学習の機会と捉える。他人がオープンに親切に伝えていることに対して感謝することを忘れない。

このようなマニュアルが配布されることによって、私も、心置きなく、仲間に対してフィードバックをすることができ、学びが深まったと思っている。

興味深いことに、脳には、無意識に「心理的安全性」を判断する場所があるらしいのだ。

心理的安全性に関わる神経系〜腹側迷走神経

イリノイ大学のStephen Porges教授は、人間を含む哺乳類には、腹側(ventral)に位置している「腹側迷走神経」が「心理的安全性」を担っていると考えている。ここの部位は、ヒトの表情、アイコンタクト、言語や声の音律を通じて、その場(社会、環境)が安全かどうか判断する神経系として知られている(ポリヴェーガル理論とも呼ばれている)。

「腹側迷走神経」は、無意識に情報を収集し、評価。

「安全なのか?」
「危険なのか?」
「命が脅かされているのか?」
その場で、無意識に判断できるという。Porges教授は、人間に備わった知覚の一つして考えており、ニューロセプション(ニューロ(神経系を使った)セプション(知覚)と呼ばれる)と呼んでいる。

「在り方」が「心理的安全性」を決める

ロルフィングのセッションを提供していく時に「心理的安全性」を意識することはあまりない。実際、「セッション」を提供する人の「在り方」の中で、徐々に「心理的安全性」を感じるようになると思うからだ。逆に、さぁ、心理的安全性だ!といった途端に、自分で思う「心理的安全性」の考え方に囚われてしまうため、逆に安全に感じなくなってしまうのだ。

面白いことに「筋膜」は「心理的安全性」の環境に置かれると、自然と身体が本来の場所に向かって動き出すのだ。あたかも身体が結果として「楽な姿勢」になっていく。ロルフィングのセッションが10回になっているのは、クライアントさんと信頼関係を構築し、姿勢が整うのは、それだけ時間をかけていくことが必要だからだと思う。ある意味、施術者の「在り方」が問われるのだ。

まとめ

今回は、心理的安全性をキーワードに、ビジネスで使われている言葉の意味、神経系、筋膜との関係を含め、ご紹介させていただいた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。