【R#301】呼吸とは何か?(1)〜脳の呼吸中枢、二酸化炭素の濃度、ストレス、重力との関係

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

ロルフィングのセッションでは第1回で、呼吸を調える。なぜ、呼吸を調えることが重要なのか?呼吸とは何か?意識と無意識をキーワードにまとめ、ストレスに対処するための方法を含め紹介したい。

「脳幹」と無意識的な呼吸

呼吸には、「無意識的な呼吸(正常安静呼吸ともいう)」と「意識的な呼吸(努力呼吸ともいう)」との2種類がある。まずは、「無意識的な呼吸」から話を進めてみよう。

呼吸をするときに、脳の中でも「脳幹」という部分が関わっている。「脳幹」の中で、呼吸に関わる部位(呼吸中枢)が明らかになったのは、2003年以降で、最近のことだ。もし、英語が理解できるならば、ぜひ下記の動画をチェックすることをお勧めしたい。

カルフォルニア州立大学ロサンゼルス校のJack Feldman教授らによって、
1)Pre-Bötzinger complex(PreBotC)(頭の後ろの首周辺、脳幹の「延髄腹外側部」の網様体にある)→息を吸う時に働く
2)Parafacial nucleus(傍顔面神経核、PFN)(脳幹の「延髄腹外側」の後台形核にある)→息を吐く時に働く
の2つの呼吸中枢(神経部位)が呼吸に関わっていることを明らかにした。

PreBotCは、呼吸のリズム、吸気(息を吸う)に関わる

PreBotCは「呼吸のリズム」、つまり、息を吸って、吐いて、というリズムを整える神経(約10,000個の神経細胞からなる)である。PreBotCは主に、息を吸う(吸気)の時に働く。就寝時、もしくは呼吸に意識を向けていない時に働く部位だ。

PreBotCの指令を受けて、吸気に必要な筋肉(肋間筋や横隔膜等)が働き、胸まわりの肋骨が広がる。肺には筋肉がないため、肋骨が広がることで、肺に空気(酸素)が自動的に入ってくる。このように、人間は、呼吸筋を使って息を吸う(吸気)

PFNは、顔面のリラックス、呼気(息を吸う)に関わる

PFNは、PreBotCと違い「呼吸のリズム」以外の呼吸や、息を吐く(呼気)の時に働く。例えば、2回息を吸って、2回息を吐く、もしくは息を止める時に働く。興味深いことに、PFNは、呼吸に意識を向けていない時は、活動を停止しているらしい。

PFNは、顔面神経の近くに位置。顔面神経と共同で働き、顎をリラックスさせ、舌を緩める効果や、発声しやすくなる。声を出す、笑う、運動するとき、レム睡眠の時等も働くのだ。

呼気の時は、筋肉が緩む。重力の影響により、肋骨の空間が自然と狭まる。胸まわりに圧力が加わり、肺が押されて、空気(二酸化炭素)が外へ出る。人間は、無意識に呼吸をしているときは、筋肉を使わずに息を吐き切ることができる。

PFNは、二酸化炭素の血中濃度を絶えずチェックしていて、二酸化炭素の濃度が高いと働く。参考に、二酸化炭素の濃度が高まると、呼吸は、呼気から吸気へ、強制的に切り替わり、自動的に酸素を取り入れるようになる。

血中の二酸化炭素の濃度が上がると〜ストレス耐性と呼吸法

二酸化炭素の血中濃度が上がると、呼吸の回数が増え、逆に減ると、呼吸の回数は減ることが知られている。呼吸の回数が増えるのは、二酸化炭素をできるだけ外に出し、酸素を取り入れるためだ(上述のPFNが働く)。ストレスのかかった状態になると、体内に活性酸素が増加、二酸化炭素の濃度が上がってしまう。呼吸が浅くなり、筋肉の緊張が増し、よりストレスを感じるようになる。

伝統的なヨガの呼吸法(プラーナーヤーマ)は、血中の二酸化炭素の濃度を上げても、ゆっくりと呼吸ができるように身体を慣らすための方法。呼吸法に「息を止めるテクニック」が多いのは、二酸化炭素濃度が高い状態でも、副交感神経優位のリラックスした状態に持っていくためだ。最終的に、ストレスに対して耐性を獲得することができる。

血中の二酸化炭素の濃度が下がることもある〜呼吸のし過ぎ

更に、二酸化炭素には重要な役割がある。酸素を血流に運ぶのはヘモグロビン。血液から筋肉や各組織に酸素が届けられるが、酸素をヘモグロビンから手放すためには、血流に二酸化炭素があるときだけ可能になるのだ。二酸化炭素の濃度が低くなると、肺、血液、組織を含め二酸化炭素の濃度が通常よりも低くなる。

実は、呼吸のしすぎは、血中の二酸化炭素の低下の要因となる。ヘモグロビンが酸素を手放さなくなり、筋肉を含め身体が効率的に働いてくれなくなるのだ。

二酸化炭素耐性試験〜ストレスの耐性度合いがわかる

血中の二酸化炭素に対して、耐性があるかどうかをチェックする方法がある。
1)鼻から深呼吸を4回(息を吸って、吐く)繰り返す。
2)5回目に、息をできるだけ吸って、ゆっくりと吐く。
3)ゆっくりと吐く際に、タイマーをON。
4)吐き切った秒数を記録する。

吐き切った秒数が
1)20〜25秒の場合、二酸化炭素に対して耐性が「低」
→対策として、3秒(吸気)→3秒(息を止める)→3秒(呼気)→3秒(息を止める)を合計2分
2)25〜45秒の場合は、二酸化炭素に対して耐性が「中」
→対策として、5-6秒(吸気)→5-6秒(息を止める)→5-6秒(呼気)→5-6秒(息を止める)を合計2分
3)50秒の場合は、二酸化炭素に対して耐性が「高」
→対策として、8-10秒(吸気)→8-10秒(息を止める)→8-10秒(呼気)→8-10秒(息を止める)を合計2分
になる。

対策を取ると、二酸化炭素に対する耐性が上がるので、ぜひ試していただきたい。

意識的な呼吸と「大脳皮質」

人間の呼吸は、意識(努力)して行う「意識的な呼吸」も可能だ。その場合には、思考を司る(大脳の外側にある)、大脳皮質が働く。大脳皮質からつながっている神経系(運動神経と呼ぶ)を通じて、呼吸に関わる筋肉が働くのだ。

「意識的な呼吸」にて、息を吸うときは、肋間筋、横隔膜以外に、補助的に働く筋肉(斜角筋、胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、大胸筋、小胸筋)も動員。息を吐くときも、補助筋(肋間筋と腹筋)が働き、筋肉が使われる。

無意識的な呼吸 vs 意識的な呼吸

人間の体内において「意識的な呼吸」と「無意識的な呼吸」の力を見ると、「無意識的な呼吸」の方が強い。例えば、水の中で呼吸を止めると、二酸化炭素の濃度が高まる。自動的に呼吸中枢のPFNが反応。吸気に必要な筋肉が収縮することで、水中から空気を取り込むことを考える。結果的に、水中に溺れることになる。

また、「無意識的な呼吸」と「意識的な呼吸」は言葉によっても影響を受ける。「深呼吸をしてください」というのと「自然呼吸をしてください」というのとでは、前者は意識的、後者は無意識的な呼吸になる。

ロルフィングでできることは〜呼吸と重力との深い関係

ロルフィングでは、第1回のセッションで、呼吸を調える。

主に、息を吸う(吸気)に関わる筋肉(横隔膜、肋間筋)を整えるのだが、何と、これらの筋肉は、重力に置かれても疲れない筋肉で、姿勢維持にも関わっている(重力に対して持続的に働くTonic Muscleと呼ばれる)。

一方で、意識的な呼吸で使われる、息を吐く(呼気)筋肉は、重力に置かれると疲れる筋肉(重力に対して一過性に働くPhasic Muscleと呼ぶ)。

吸気に関わる筋肉が収縮し、呼気に切り替わる時に筋肉が緩まないと、疲労感を感じる筋肉が働き出すことになる。

ロルフィングの1回目のセッションで、吸気に関わる筋肉を整える理由は、ここの緊張を解いていけば、自ずと意識的な呼吸で使われる筋肉が緩むのだ。

まとめ

今回は、呼吸とは何か?から始まり、意識と無意識をキーワードにまとめさせていただいた。どのように呼吸を深めるのか?ストレスに対処するための方法、ロルフィングでできることを含め紹介させていただいた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。